僕は、
一番安い煙草を吸っている。
都営住宅に居た頃は、
かみさんが「エコー」を、
カートンで予約して、
買ってくれていた。
子育てしていた時代は、
それでも、
自分だけ贅沢している様で、
後ろめたかった。
人前では恥ずかしかったので、
オレンジ色の箱が、
見えないようにしていた。
今でも、
一番安い「わかば」を
吸っている。
1本を3回位に分けて吸うので、
前より本数は減った。
喫煙所では、
途中で消しシガーケースに、
戻すのが恥ずかしい。
花瓶に、
山水の絵付けする叔父が、
4本に切ったゴールデンバットを、
煙管に詰め、深々と吸うのを、
見るのが好きだった。
寡黙な叔父が、
僕にだけ見せる笑顔に、
不思議な安心感を覚えた。
叔父との、
最後の別れは
「ありがとね」だった。