親父は、
耳が原因で、徴兵検査を落ちたらしい。
僕の難聴は、
親父からの遺伝かも知れない。
徴兵検査に落ちた事の反動だったのか、
親父は共産党に身を捧げた一生だった。
僕が小学校に上がると、
党の機関紙赤旗を配達させられた。
家に届くのは結構の量だったが、
実際に僕が配達するのは、
5~6軒だったので、
差額は親父が、
補填していたのだろう。
レッドパージの時代、
普通の会社勤めは、
当然出来なかった。
臨時で勤めた、
高校の美術教師も、
辞めさせられたらしい。
駄菓子の小売や中卸的な事で、
生計を立てていたが、
支部長とかの肩書きで、
売上の大半を、
党に注ぎ込んでいた。
とにかく貧乏だったが、
それが普通だと思っていたので、
辛さや惨めさは感じなかった。
ただ、
親父と後妻が、
お金の事で、
言い争う声を聞かされるのは、
逃げ場の無い地獄だった。
高校の時、
万引きしたチャーチルの絵柄の
カフスボタンを、
親父にプレゼントした。
親父は激怒した。
万引きがバレたのかと思ったが、
共産党員にチャーチルは、
有り得なかったらしい。
今も時々苦笑いする。
僕が、
政治に関心を持たないのは、
親父の二の舞だけはしたくないと、
思って生きて来たからだ。
ただ、
この文も見返していたら、
共産党の事を「党」と書いている。
赤旗配りの時代に、
戻ったみたいで悲しくなった。