僕の価値観は、
美しいか、美しくないかの、
2通りしかない。
残難ながら、
今日まで美しいと感じた事は、
1度しかない。
高校の時、
実家から下宿まで、
バイクで戻っている時、
前のトラックが急に止まった。
止まり切れなかった僕は、
トラックにぶつかり、
バンパーを曲げてしまった。
僕の頭の中は、
弁償する金などないので、
思考停止状態となった。
バイクとて、
修学旅行の積立金を勝手に解約し、
友人から安く譲ってもらったモノ
だったので、
余分なお金など一切なかった。
運転席から降りて来た、
男性に向かって
「急に止まる方が悪い」などと
見苦しい言い訳を始めた。
彼は、
僕のわめき声には反応せず、
黙ってバンパーを引っ張り、
元の形に戻した後、
何か、一言二言言って、
トラックに乗り込み、
去って行った。
男性の顔も言葉も、
記憶に残らないほど、
鮮やかに過ぎ去った。
彼の美しい行動と、
自分の見苦し過ぎる言い訳の、
コントラストが、
忘れられない光景として、
心に焼き付いた。
泣きたくなるほど、
美しい風だった...。